あれは、アフリカ大陸に位置する国スーダンへ出かけたときのことだった。
ある村で男がいう、この国には伝統的な拳法があるのだそうだ。
そんなものがあるのか、ならばぜひみせてくれ、というと、
男は、今は見せられない、という
曰く、これは、仲間の村の村人が攻撃されたときしか使うことのできない拳法だからだ、というのだ。
この拳法は男の村と同盟を結んでいる隣村の村人が他の村の者に攻撃された時だけ使うことができるのだという。
これこそが、友情の証だ、と男は得意げに笑った。
それにな、隣村の皆はとても強いんだ。
隣村を攻めようなんて思うやつはいない。
だから、その拳法も使われることはないよ。
おかげでこのあたりでは喧嘩なんて一度も起きたことはないんだ。
と男はいった。
うむ。たしかにその通りだ。
隣村は強いばかりでなく、非常に優秀な村長がおさめていて、規律正しく暮らしていた。
この村で乱暴をしようなんてものは誰もいないに違いない。
そして、それから数年後、またスーダンに行く機会があった。
あれから、村はどうなったのだろうか。
気になった僕はまた同じ男を訪ねて話を聞いてみた。
僕は、男を一目見ておどろいた。彼の顔中はいたるところ殴られたあざだらけだったのだ。
彼がいうには、
あの後、高齢だった隣村の村長が死に、長男が後をついだ。
だが、長男は、聡明だった父親とは違い、まったくのごろつきだった。
違う村のやつらだとみればすぐに喧嘩を吹っかけたのだ。
そうしたある日、ついに堪忍袋の尾が切れた他の村の村人たちは
隣村に殴りこみをかけたのだ。
そうなってくると、同盟をしている男の村も喧嘩に加わらざるを得なくなり、ひどく大きな殴り合いになったのだという。
そうして、男もあちこちけがをしてしまったのだという。
なんてことだ。あのときはすばらしい決めごとだと思ったのに。
村長がかわっただけでこんなことになってしまうなんて。
「それがどんなに正しいつもりでも。
力というものは一度暴れだしてしまうと、とめようのないものなんだ。
だから力を持った者は注意深く、
本当に注意深くその力を使わなくてはいけないよ。」
言葉を失った僕をみて、たんこぶで目を腫らしたまま男はそういった。
そういえば、あの拳法の名前はなんだっただろうか。。。
ああ、そうだ。
スーダン的自衛拳
というやつだ。
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