Thursday, March 27, 2014

晴れ時々ミサイル


「今日の天気は、全国的に晴れ時々ミサイルです。」

天気予報が告げる。

それを見ていたママが言う。

「あなたー、今日はミサイルよ、防護スーツはちゃんと着た?」

「ああ、ありがとう、うっかり忘れるところだったよ。あぶない、あぶない。」

と、パパはそんなことをいいながら、銀色の防護スーツに着替える。

「これさえ着てれば、ミサイルも放射能も怖くないからな。

じゃ、カオル、行ってくるよ。いい子にしてるんだぞ」

そういって、パパは、ゆっくりと二重になった玄関のシャッターを開けて
会社に出かけていった。


防護スーツを持ってないわたしは、ミサイルの日は外に出られない。

今日は学校もお休みだ。

「あーあ、つまんないの」

そう思いながら、窓の二重防弾ガラスを通じて外を眺める。

道を歩く人も、鳥や犬や猫の姿もない。動くものは何もない。

時々防護スーツ姿のサラリーマンが、駅へと通勤していく姿以外は。


外は雲ひとつないのに。
空はあんなに青いのに。
私は家から一歩も出られない。

隣の国の狂った軍事用コンピューターはときどきこうやって、
ミサイルを大量に撃ち込んでくる。

決まってこんな晴れた日に。
わたしは遊びに行きたいのに。

十年以上前の戦争のさなか、クーデターで指導者を失い、
なおも続いた動乱で国が荒れ果てた後も
コンピューターだけは動き続けている。

人が入り込めないほど放射能で汚染された無人の基地で、
コンピューターだけが生きていて、

いつまでも戦争を続けてるなんて。

とっても変な話だよね。

前に、パパが話してくれたんだけど、

いまから十年以上も前の話、隣の国から初めてミサイルが飛んできたとき、

それはもう、みんな大パニックになって、

国中大騒ぎになったらしいんだって。

でも、いまではそれも嘘みたいに、みんな慣れっこになってしまったんだって。

「ホントは取り返しのつかないことを人類はしてしまったんだけどね」、ってパパは言ってたけど、

生まれる前のことだし、あたしにはよくわかんないや。


お天気予報のキャスターがまた繰り返す。

「今日は晴れときどきミサイルです」

防護スーツが発明されて、ほぼすべての家がシェルターに覆われるようになって。

いまではミサイルによる犠牲者は一年間の交通事故死亡者よりもずっと少なく、

天気予報の隅っこでときどきその事を意識するだけになっている。


「あーあ、つまんないの」

わたしはこれから始まる退屈な一日を思って、ため息をついてほおずえをつく。

空はあんなに青いのに。
わたしは遊びにいきたいだけなのに。

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