Tuesday, March 11, 2014

犬はどこへ逃げた?


「犬が逃げちゃったんだよ、あの角の先にいる」

と家の前で困り顔で立っているおばあさんのそばを通りかかった。

「捕まえるの手伝ってくれないかい?」

ああ、じゃあ、そういうことなら、、とおもって、おばあさんの指し示す方向に探しにいってみるけれど、犬はみつからない。

すると、家の中から「ああ、すみません、、」と家族らしき人が出てきた。

なんでもおばあさんはぼけてしまっていて、いつも「犬が逃げた」と言っているのだとか。

迷惑かけてごめんなさいね、と謝る家族の人たち。

いえいえ、大丈夫ですよ、と答えながら、思った。

さっきの、おばあさんの困った顔はとても、真剣だった。

そりゃそうだ、実際に逃げた犬はいなくても、おばあさんの中では

「かわいがってた犬が逃げてしまった、困った」

という感情がずっと続いているのだから。

でも、そもそも人の心は、だいたいこんな風に不思議に理不尽に出来ていて、
実際に逃げてもいない犬のことを悲しんでいるおばあさんのように、

誰しも、ありもしないことをおそれていたり、
失っていないものを失ってしまった、
と嘆いてみたりしているのかもしれない。

いったい人の心から、犬はどこへ逃げて行くのだろう。



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