「米軍はこの町に爆弾を落とさなかった。」
実際のところ、落とさなかったのか落とせなかったのかは知らないがまあとにかく、ベトナム戦争の北爆からこの町は焼け残った。
ここはホワンキエム湖北部のハノイ旧市街。
そのおかげで、この一角は、中国風の旧市街と、フランス植民地時代の名残りをのこした穏やかなたたずまいの町となって、今に残る。
街角には居心地のよいカフェも多く、小さな通りに面した2階のテラスに立ち寄るのが最近の日課だ。
ベトナムの人々と話す話題は大きく二つ。
「尖閣諸島はどうなってるか?」
ということと、
「最近の日本からの客は年寄りばかりだね」
ということだ。
この国の平均年齢はぐんと若く、27歳だ。
でも、それは40年前のベトナム戦争で多くの国民が死んだから。
「米軍はこの町に爆弾を落とさなかった」が、人々の頭の上には容赦なく爆弾を落とした。
結果この国の平均年齢は27歳になり、この一角にだけ百年の町並みが残った。
ベトナムと日本には40年の時差がある。
人口構成的には日本の1970年代とほぼ同じ。
多くの国民が亡くなった第二次世界大戦から、30年経った1970年代。
日本は毎年10%、20%もの驚異的なGDP成長を記録している。
この国がそうなるかはしらないけれど、平均年齢44歳の国から来ると違和感があるくらい、町も公共の乗り物も、レストランも活気と若者であふれている。
数十年後、日本のように、米軍が落とした爆弾のことは誰も語らなくなり、この国はいまよりもずっと経済発展を遂げているのだろうか。
そのとき、百年の町並みの一角にこのカフェはまだ、残っているのだろうか。
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