湖のほとりに雨が降ると、あたり一面が完全に水で閉ざされて、
なんだか自分もすっかり水の中の魚のような気分になる。
服も髪も濡れているのがそもそも自然なのかもって気がしてくる。
周りを行く人たちもたぶん、魚かカッパかなにかのたぐいだろう。
だとしたらさしずめ俺はカエルあたりで、あの水しぶきを上げて走る人力車はのおじさんはアメンボだろう。
そんな水の中でタクシーを止め、まだ服も乾かないまま、五分ほどでおりる。
「このビルはシンガポールに比べると家賃は3分の1だよ。でもほら、すごくゴージャスだろ?」
と、チェンが言ったそのビルは、たしかにピカピカでゴージャスだけど、
水に埋もれた町の中にどこか不釣り合いな感じで無愛想につったていて。
乾いたロビーに一歩足を踏み入れると、
濡れスーツのカエル男としては、急に居心地の良い井戸の中から表に放り出されたようななんともいえない気持ちになったのである。
さ、仕事だぜ。
せめて人間に戻って服と髪くらいはびしっといかなくちゃね。
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